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ゆく年来る年のホームパーティー


クリスマスが終わると
「いよいよ今年も残すところあと少しだなぁ…」
と、急にしみじみ思います。
年の瀬には1年を振り返ってみたり、来年はどんな年にしようとかも考えるし、すっきりといい気持ちでお正月を迎えたいと大掃除をしたりもします。

やっぱり私たち日本人にとって年末年始は1年の節目、心の節目のように感じます。

さて、イタリアで迎えた98年から99年にかけての年末年始は、いったいどんな感じだったのでしょうか…


クリスマス休暇である25日(ナターレ)・26日(サントステーファノ)が終わると、町はふたたび動き出しますが、お祭り気分はずっと続いていました。クリスマスが終わるとすぐに飾り付けを片付けてしまう日本とは違って、ここイタリアはイルミネーションやクリスマスツリーもそのまま、そして露天のメルカートなどでは大晦日に向けて花火が売り出されます。

年越しをどう過ごすかまだ決めていない連中ばかりでサブリーナの家に行って、みんなで年越しを過ごそうと誘われたのは、クリスマスも終わり今年もあと越すところ数日となった頃でした。

サブリーナの家はリヴォルノから南へ約60km、トスカーナの雄大な自然に囲まれた小さな村スヴェレート郊外にある田舎の大きな1軒家。レストランやアグリツーリズモなどが、もうすでに大晦日は貸切などで予約が取れない状況だったので、だったらサブリーナの家に行こうということになったらしいのです。

大晦日、1年の最後の日の昼下がり、リヴォルノからサブリーナの家へ車に同乗して行くことになった私たち5人は、途中、大型スーパーマーケットでパーティーの為の食材をカートいっぱいに買出しして、南へと向かいました。
車窓からは、ゆるやかに起伏する丘陵地帯や曲がりくねった小径に沿って糸杉が並ぶ美しい田園風景が果てしなく拡がっていて、右手には海岸線がずっと続いていました。

車で行くことおよそ1時間、私たちはサブリーナの家に到着しました。

私と同い年のサブリーナは、東洋系を思わせるあっさりとした顔立ちをしていて、クールな知的美人。美しい城塞都市ヴォルテッラの銀行に勤めています。

「ようこそ、いらっしゃい。自分の家だと思ってゆっくりしてね」
彼女はセーターにジーパンといった軽快な姿で、大きな犬2匹と一緒に私たちを出迎えてくれました。
もうすでに他のゲストの何人かも到着していました。

サブリーナの両親は海外に旅行へ出かけていて留守とのことでした。今宵は出席者がみんなで準備をして愉しむカジュアルパーティー、日も暮れてきたので早速準備にとりかかることにしました。

みんなで暖炉のある大きな居間にあったソファーを部屋の隅に追いやると、庭に並べてあったテーブルと椅子を家の中に持ってきて食卓につなぎ合わせました。
この年越しパーティーに集まったのは総勢15人。つなぎ合わせて長くなったテーブルに紙の赤いテーブルクロスを敷いて、使い捨てのプラスティックの皿に前菜の生ハムやサラミ、自家製のオリーヴ、カルチョッフィーの酢漬けなどをいっぱいに並べました。

奥の台所では、サブリーナや何人かの料理担当が、もうすでに料理に取りかかっていました。

ようやくすべての準備が整うと、テーブルの上に準備された赤いキャンドルすべてに火が灯され、部屋の灯りが消されました。
キャンドルの小さな灯りと暖炉で燃える炎、そして窓際に置かれたクリスマスツリーの色とりどりの光だけが部屋に浮かびあがりました。
さあ、とりあえずみんな席に着き、ワインで乾杯!
長い長い年越し大晩餐(チェノーネ)の始まりです。

厳かなムードの中、前菜をつまみながら、あちこちで会話が弾みます。
面識のある人もいれば初対面の人もいて…
ひとりフランス人のクレアという女の子もいました。私は他に外国人がいたので少し安心しました。

パスタが浮かんだクリアスープ(ブロード)と、きのこのスパゲッティーが入った鍋が、それぞれ運ばれてきました。それを誰かがお皿に入れ、みんなが全員に渡るよう皿をまわしていく…まるで昔の給食のような手際のよさです。

料理担当の数人は、ほんのひとときのあいだ、みんなと一緒に食事を楽しむと台所へまた戻っていき、自然塩と黒粒コショウだけで味付けし、庭に生えていたザルビアで香りづけしたステーキを豪快に焼き始めました。焼き上がったステーキからつぎつぎにテーブルのほうへと運ばれてきます。焼くだけだったら出来るからと、いつのまにかみんなが交代で台所に立ち、ステーキを焼くことになりました。
豪快で素朴なステーキ(ビステッカ)、一緒に焼いた腸詰ソーセージ(サルシッチャ)、それからさっきブロードの出し汁をとるのに使ったニンジンやセロリやタマネギといった野菜も次々とテーブルに並びました。

「このくたくたになった温野菜にうちのオリーヴオイルを垂らして食べるとおいしいよ」

早速わたしも食べてみました。
野菜の甘味がオリーヴオイルの風味と合わさって、なんともまろやかな味わい。
このオリーヴオイルはサブリーナの自宅の庭で収穫したオリーヴの実から絞られた自家製だそう…カラフに入れられたワインも庭で出来た葡萄からつくられたものだと言いました。

「うちは農家じゃないし、ワインは専門家に頼んで、すべての管理を任せているの。出来上がったワインやオリーヴオイルはうちで使うくらいの量しか収穫できないけれど、もし欲しい人がいたら分けてあげることもできるわ」
とサブリーナ。

そのうち、次第にみんなワイン片手に席を立ち始め、いつのまにか晩餐は立食パーティーへと変わっていきました。

気がつけば、時計の針が12時に近づいていました。
ひとりが「外に出ない?」と言いました。

上着をはおってぞろぞろとみんなで庭に出ると、外は霧雨がぱらついていました。
あいにくの霧雨も、長いチェノーネのあとだとなんとなく心地よく感じます。
土の匂いに深呼吸をしていると、みんなに花火が手渡されました。
いよいよ新年のカウントダウンです。

「チーンクエ クワーットロ トレ ドゥーエ ウーノ ゼロ! … アゥグーリ(おめでとう)!」

真っ暗闇の夜空に打ち上げ花火がパンパーンと上がりました。
みんなで抱擁を交わし、頬にキスをし合う…

「アゥグーリ」

「アゥグーリ」

それから花火の火をみんなで分かち合い、私たちはしばらくのあいだ雨に濡れながら、無邪気に花火を楽しみました。

家の中に戻り、もういちどスプマンテで新年に乾杯!!
クリスマスドルチェのパネトーネやパンドーロを口にしました。

こうして、大晩餐会は延々と続き、長い夜は更けてゆきました。

次の日、当然のことながら私たちは寝正月の朝を迎えました。
お腹がすいて起きだした人から、各自ゆうべの残りのドルチェをつまんでいます。

そのうち誰からともなく、ゆうべの後片付けや掃除をし始めました。
使ったものをすべてきれいに元の位置に戻し、大量のゴミも全部袋に入れてまとめていきます。床はほうきで履き、塵をまとめて外に出し、その後モップで丁寧に磨き上げ…。
それにしても、こういったホームパーティーに慣れているのか、それともきれい好きなのか、みんな本当に手際がいい。私とフランス人のクレアは、掃除をしていてもなんとなく彼らイタリア人の手際のよさに圧倒されていた感じがしました。イタリア人は、特に家の中に限っては潔癖すぎるくらいきれい好きですから…。

それから私たちは、昨日の買出しにかかった費用を、サブリーナを除いた人数分で割って精算しました。

外はポカポカといいお天気でした。
家の大掃除を終えた私たちは、ぶらぶらと広い庭を散歩してみたり、テラスでくつろいだり、飼っている犬や馬とじゃれあったり… 思い思いの時間をゆったりと過ごしました。

昨日はもう暗かったので気付きませんでしたが、見晴らしのいい高台にあるサブリーナの家からの眺めは素晴らしく、まるで雄大なトスカーナの大地をひとり占めしているようでした。
はるか向こうには、きらきらと光る海も遠望できました。

「せっかくだから、日が暮れてしまう前に近郊に繰り出そうよ」

もちろんみんな賛成しました。

ここから車で10分ほど行ったところにピオンビーノという、半島先端にある小さな町があります。私たちは、そこへ行ってみることにしました。
山の谷間から遠くに海が見える、曲がりくねった道を抜け、視界いっぱいの海を見下ろすことができる岸壁の広場に車を停めると、私たちは歩き出しました。
同じように近郊から車でやって来た人々も、潮風を感じながら、今年最初のそぞろ歩きを楽しんでいました。ゆったりとした時間の流れのなか、私たちはこの岬にある愛らしい町のお城を散策、それから真っ赤に燃える太陽が海に沈んでいく瞬間を待ちました。

ふと反対側に目を向けると、大きなお月さまが山から姿を出しかけていました。
それは偶然出逢った初日の出ならぬ、イタリアで見た初月の出…
赤みがかったこの大きなお月さま… とても印象的で、今でも想い出すと目に浮かんできます。

それにしてもイタリアのお正月はなんともあっけないものでした。

元旦も、まるでいつもの日曜日のようでした。
この日はクリスマスや大晦日での疲れを癒し、思い思いにゆっくりと過ごすのが、イタリア式ということなのでしょうか。

「日本ではお正月がイタリアのナターレのように大切な日だって本当なの?」

「そうよ、"早く来い来いお正月〜♪"って歌があるくらいなんだから」

そう言いながら、私は少しだけ日本の伝統的なお正月が恋しくなりました。
(16/01/2005)

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